はじめに「社内システムが使いにくくて業務効率が上がらない」「新しいツールを導入したが現場から不満の声が上がる」「BtoBシステムのユーザビリティ向上に取り組みたいが、どこから始めればよいかわからない」このような課題を抱えている企業は少なくありません。BtoBシステムのUI/UXデザインは、BtoCサービスとは大きく異なるアプローチが必要です。利用者の業務効率性、操作の正確性、学習コストの最小化など、特有の要件への対応が求められます。本記事では、24年間で製造業、金融業を含む200社以上のUXプロジェクトを支援してきたゆめみの知見を基に、BtoBシステムにおける効果的なUI/UXデザインの進め方を詳しく解説いたします。BtoBシステムのUI/UX特有の要件利用特性に関する要件BtoBシステムのUI/UXデザインを考える際、まず理解すべきはBtoCサービスとの本質的な違いです。利用目的、利用者特性、利用環境が大きく異なるため、同じ手法をそのまま適用することはできません。利用目的の違いでは、BtoCが娯楽性や満足度を重視するのに対し、BtoBは業務完遂と効率性が最優先となります。利用者はシステムを「使いたくて使う」のではなく「業務上必要だから使う」という状況にあります。利用者特性では、BtoCは不特定多数のユーザーを対象とするのに対し、BtoBは特定の業務に精通した専門家が主な利用者となります。ただし、業務に詳しいからといってデジタルリテラシーが高いとは限りません。年齢層や部署によってITスキルに大きな差があり、システム操作に慣れていないユーザーも多く存在します。また、新しいシステムへの適応には時間を要する場合が多く、業務知識とシステム操作スキルは別物として捉える必要があります。利用環境では、BtoCが個人的な時間での利用が中心となるのに対し、BtoBは勤務時間中の限られた時間での集中的な利用が基本となります。マルチタスクでの操作や、他の業務と並行した利用も多く見られます。業務効率性に関する要件BtoBシステムでは、ユーザーの業務効率を最大化することが最も重要な設計原則となります。これは単に「使いやすい」だけでなく、「早く・正確に・ストレスなく業務を完了できる」ことを意味します。操作回数の最小化では、頻繁に実行される業務フローについて、クリック数やページ遷移数を可能な限り削減します。ショートカットキーの提供、バッチ処理機能、一括操作機能などを積極的に活用します。情報の視認性向上では、業務に必要な情報を適切な粒度で整理し、優先度に応じた情報階層を構築します。ダッシュボード機能やカスタマイズ可能な表示設定により、個々のユーザーの業務特性に対応します。エラー防止と復旧支援では、操作ミスによる業務への影響を最小化します。重要な操作前の確認ダイアログ、操作の取り消し機能、データの自動保存機能などを組み込みます。データ処理に関する要件BtoBシステムでは、大量のデータを効率的に処理することが求められるため、データ中心のインターフェース設計が重要になります。テーブル表示の最適化では、ソート、フィルター、検索機能を充実させ、必要な情報を素早く見つけられるようにします。列の固定、可変幅対応、エクスポート機能なども業務効率に大きく影響します。フォーム設計では、入力項目の論理的なグループ化、必須項目の明確化、入力補助機能の提供を行います。バリデーションは適切なタイミングで実行し、エラーメッセージは具体的で改善方法がわかるものにします。データビジュアライゼーションでは、業務判断に必要な洞察を得やすい形でデータを表現します。グラフやチャートは装飾性よりも情報の正確な伝達を重視し、ドリルダウンやフィルタリング機能を提供します。実装における具体的手法ユーザーリサーチBtoBシステムの効果的なUI/UX改善には、実際の業務フローと利用者の行動パターンを詳細に把握することが不可欠です。現場観察では、実際の業務環境でユーザーがシステムをどのように使用しているかを観察します。操作のクセ、頻繁に使用する機能、困っている場面などを記録し、改善ポイントを特定します。インタビュー調査では、業務の全体像、システムへの期待、現在の不満点などを詳しく聞き取ります。経験年数の異なる複数のユーザーから意見を収集し、スキルレベルによる違いも把握します。アクセスログ分析では、システムの実際の利用状況を定量的に把握します。よく使われる機能、エラーが多発する箇所、離脱率の高いページなどを特定し、改善の優先順位を決定します。プロトタイピング検証BtoBシステムでは、実装前の検証が特に重要です。業務への影響が大きいため、リリース後の大幅な修正は避ける必要があります。ローファイプロトタイプでは、基本的な画面遷移と情報構造を簡易的に表現し、ユーザーと合意形成を図ります。業務フローとの整合性、必要機能の過不足、画面間の関係性などを確認します。ハイファイプロトタイプでは、実際のデータを使用して詳細な操作感を確認します。レスポンス速度、操作の直感性、エラーハンドリングなど、実運用に近い条件での検証を行います。パイロット運用では、限定的なユーザーグループで実際の業務でシステムを使用してもらいます。予期しない使用方法、業務フローとの不整合、パフォーマンス問題などを早期に発見できます。効果測定・改善BtoBシステムの改善は、一度に大きな変更を加えるより、段階的な改善を継続することが効果的です。定量的な効果測定では、業務処理時間、エラー発生率、習得期間、利用率などを継続的に測定します。改善施策の効果を客観的に評価し、次の改善方針を決定します。定性的なフィードバック収集では、定期的なユーザーインタビュー、満足度調査、改善要望の収集を実施します。数値では表れない使用感の変化や、業務に対する影響を把握します。改善サイクルの確立では、問題発見、改善案検討、実装、効果測定、次の改善へのサイクルを制度化します。ユーザーからのフィードバックを受け入れやすい体制を整え、継続的な改善文化を醸成します。まとめBtoBシステムのUI/UX改善は、業務効率性を最優先とした独自のアプローチが必要です。利用者の業務特性を深く理解し、データ中心のインターフェース設計により、実用性の高いシステムを実現できます。成功のポイントは、現場の実態把握、段階的な改善、継続的な効果測定です。一度の大幅な変更よりも、小さな改善を積み重ねることで、より確実で持続的な効果を得ることができます。BtoBシステムのユーザビリティ向上は、従業員の働きやすさ向上と企業の生産性向上に直結します。まずは現状の課題を整理し、最も効果の高い改善から着手してみてください。