はじめに「デザイナーを採用したが、期待した成果が出ない」「デザインの重要性は理解しているが、組織全体で活用できていない」。このような課題を抱える企業が増えています。日々刻々と変わる私たちの生活の中で、革新的なAI技術が新たな変革の風を運んでいます。あらゆる情報を網羅し、最も正しそうな答えを見出すだけでは意味がなくなってきており、自らゴールを定め、その過程で必要な情報だけを取捨選択し、理解し、行動することが求められています。私たち株式会社ゆめみは、2000年の設立以来24年間で、累計200社以上の企業のデザイン組織強化を支援してきました。この考え方こそがデザインの本質を捉えるものだと信じ、お客様の理想実現を支援する「デザイン・イネーブルメント」というアプローチを実践しています。本記事では、Design Enablementの本質と実践について解説します。Design Enablementとは何かデザインがソフトスキルになる時代かつてデザイナーといえば、スターデザイナーによる個人のアーティスト的なセンスを持つ人だけが関わる仕事だと思われていました。しかし、2000年以降IDEOによる「デザイン思考」の普及から一気にその流れは変わってきています。デザイン思考がもたらした重要な変化の一つは、デザインプロセスへの参加を、これまで「デザイナー」に該当してこなかった人たちにも押し広げたことです。社内でプロジェクトが進んでいる時に、顧客やユーザーにインタビューをしたり、そこから得た情報をもとにカスタマージャーニーを描いたりしているのは、デザインの専門家だけではありません。営業、カスタマーサポート、エンジニア、マーケティングなど、さまざまな役割の人たちが参加しています。自分たちが作っているプロダクトやサービスを使ってくれている人たちのために、より良いものにしようという想いがあれば、そこにはそれぞれの専門性に加えて、よりあたりまえな行為としての、ソフトスキル的なデザインがあります。イネーブルメントの語源と本質イネーブルメントは、「〜を可能にする」という動名詞です。この考え方は、古くから作業療法の分野で、顧客中心のリハビリテーションを実践するために考案されたアプローチです。イネーブルメントでは、支援をする個人、チーム、組織の想いとゴールに寄り添い、それぞれに最適化された介入を行います。Design Enablementの意味デザインという試行錯誤的なアプローチを可能にすることデザイン・イネーブルメントとは、支援する相手が持つ理想を達成するために、デザインという試行錯誤的なアプローチを可能にすることです。これが、より高度にデザインという武器を扱うデザイナーに求められる役割です。デザインは、ゴール(理想の状態)に辿り着くための試行錯誤であり、プロセスです。デザイナー、もしくは、ソフトスキル的にデザインを実践できる人材であれば、誰でもデザインに取り組んでいると言えるでしょう。新しいデザイナーの役割デザインがより多くの人たちによって実践される社会が広がる中、デザイナーの役割は従来の制作者から、デザインという営みを可能にする支援者へと変化しています。個人、チーム、組織が理想の状態に辿り着くために、最適なデザインアプローチを選択し、実践を支援することが重要になっています。なぜ今Design Enablementが必要なのか変化する社会とデザインの役割現代では、デジタル変革の加速により、すべてのタッチポイントでユーザー中心の思考が必要になっています。また、複雑化するサービス設計において、システム全体の設計思考が重要になっています。組織における実践の広がり優秀なデザイナーの採用競争は激化していますが、重要なのは限られたデザイン人材で最大の成果を出すことです。組織のメンバーがそれぞれの専門性を活かしながら、ユーザー視点でのアプローチを実践できる環境を整えることが求められています。まとめDesign Enablementは、デザインがソフトスキル化する現代において、組織の潜在的な力を引き出すアプローチです。デザイナーの役割は、個人の専門的制作から、組織内でのデザイン実践を可能にする支援へと変化しています。重要なのは、相手の想いとゴールに真摯に寄り添い、それぞれに最適化されたアプローチで理想実現を支援することです。これにより、組織全体がより良いプロダクトやサービスの創造に参画できる環境を構築できます。このような考え方は、変化する社会の中で持続的な価値創造を実現し、真にユーザーに寄り添うサービスを生み出すための重要な視点といえるでしょう。