デジタルネイティブなプロダクトが増えることにより、企業もよりデジタル化の時代に合わせた開発プロセスに変化していく必要があります。デザインも同様に従来のクラフトマンシップのみを求められることから広がり、事業全体に関わる役割も担うようになっています。一方でデザイナーと呼ばれる職能の方は組織に既に存在するキャパシティを超えた活動をすることはできません。組織にデザインを浸透していくためには既存の開発をより効率化し、クリエイティブな活動へリソースを増やすことが鍵でもあるのです。その手段としてデザインシステムは2010年代を中心にデジタルプロダクトをもつ企業から拡大をしていきました。デザインシステムが一般的に導入され、運用されるようになった市場の背景や、デザインシステムに関する歴史を紐解き、なぜデジタルプロダクト開発において導入される事例が増加しているのか3つの記事に分けて考察します。昨今のプロダクト開発プロセスの課題昨今のサービス・プロダクト開発にはいくつかの課題がありますが、特にデザインシステムが近年必要になる状況の背景にあるのは下記のような課題があります。一つ目は事業部ごとや施策ごとにチームが別れており、複数のチャネルごとの開発を独立して行っているため、同じエンドユーザーでも接点によって享受する体験に差異がある点です。リリース当初はプロダクトが一つだったものの、事業変革やマーケティングの需要などによって制作物が増えてしまう状況があります。その結果、同じユーザーでも企業との複数の接点を持つなかで、結果アプリを使う自分・Webサイトを見る自分と違うメンタルモデルが形成されてしまうという課題です。二つ目にアジャイル開発のなかでスプリントを重ねるごとに、デザイン・コード負債が蓄積されることです。アジャイル開発では、スピード感をもって開発をおこなうなかで、その過程で作られる資産の整理整頓をマンパワーでおこなったり、そもそもの時間を捻出することが難しいという点です。ウォーターフォール開発のなかでもこのリファクタリングの工程を、開発中のステップのなかに取り入れにくいという点は共通しています。課題の背景にあるデザインシステムが必要とされる状況先に挙げた課題の背景をさらに分解すると、デザインシステムが求められるような状況では下記の五つの大きな文脈から構築されることがあります。ブランドに沿ったデザインが展開されていないデザインシステム導入・構築に興味があるが、どれくらいの範囲で取り組んだらいいのかわからないプロダクトそれぞれのユーザ体験が一貫していないすでに作成されたデザイン成果物に対して明確な方針がないプロダクトの成長スピードに応じた デザイン負債解消や、リファクタリングに取り組めない課題を解決しない未来には事業全体に影響がある障害が大きく二つあります。局所最適・属人化の進行で起こるプロダクトのブラックボックス化表面化しにくいコストの増幅と生産性の低下による利益率の下降これらのバッドシナリオにより、開発の負債が見えづらい形で蓄積され、プロダクトが本来提供すべき価値に悪影響を及ぼすことがあります。デザインシステムとは課題や状況を踏まえ、近年使われる手法としてデザインシステムがあります。デザインシステムとはデザインの再利用性と再現性を軸に、デザイナーだけでなく幅広い職種のかたが使える指針のようなものです。UIコンポーネントやガイドラインをまとめたものだけでなく、幅広い要素を取り込むことができる考え方です。導入し定着させるためには、デザインシステムがプロダクトのように成長する環境を作り上げる必要があるため、構築・運用のプロセス自体もデザインすることが重要です。デザインシステムのビジネスケースデザインシステムが導入されている会社規模の傾向Googleが行ったリサーチによると小中規模の企業は、2年以内にデザインシステムの導入を進め、その効果を上げています。さらに大規模な企業では、4年以上も前からデザインシステムが導入され、定着が進んでいます。これは2020年時点での調査であり、現在ではさらに多くの企業が導入していると考えられます。デザインシステムの他社事例(海外)デザインシステムを導入している企業の例として、デジタルプロダクトにおけるデザインシステムではAtlassianやSalesforceといった複数サービスをかかえるデジタルプロダクト事業の企業がリードをしてきました。まとめこの記事では、デザインシステムが導入される背景にある課題について解説し、具体的な事例をもってなぜどのような企業が導入しているのかを解説しました。次の記事では、歴史とツールの変化に視点を移し、デザインシステムを取り巻く環境について焦点を当てます。