なぜUX/UIが重要になってきたのか?テクノロジーの進展に伴い、多くの企業にとってデザインの重要性が急速に高まっています。特にモバイルアプリやウェブなどのデジタルサービスのUX/UI品質は、ユーザーの継続利用率、消費行動、そして事業の成功に大きく影響する要因となっています。ではなぜUX/UIがこれほどまでに重要になってきたのでしょうか。私たちの生活は常に道具の変化と隣り合わせでした。特に第3次産業革命以降、デジタルテクノロジーの著しい進歩が社会に新たな変革をもたらし、現在では仕事でノートパソコンを利用して、通勤中にスマートフォンで動画やニュースを見て、家に帰ってSNSで友人とやりとりをする。このように途切れることなくデジタルな道具と共に生活をしています。この変化のきっかけとして、2007年にAppleがiPhoneを発売したことがしばしば挙げられます。従来はパソコンでの操作が前提とされていたさまざまなタスクが、iPhoneの普及によりあらゆる場所で可能となりました。この出来事により、ますますユーザーの利用環境が変化し、SuicaやPASMOの利用、航空券の表示、キャッシュレス決済などが一般的になりました。この世界中の誰もがインターネットやアプリを通じてさまざまなサービスを提供可能であるという状況は、これまで存在した「国境」という物理的な制約をネットワークによって取り払い、ユーザーに感動を与え、使い続けてもらうために継続的にその品質や体験価値を向上させていくことをサービス提供側に要求しています。言い換えると、アプリを通じて提供されるサービスのUX/UIを常にアップデートし続ける必要があるのです。さらに、現代社会ではセンサーが日常生活のあらゆる行動を収集し、クラウドにデータとして蓄積され続けています。このような環境のあらゆるところにコンピューターが溶け込み消えてしまうことを「ユビキタスコンピューティング」といい、ビッグデータから人工知能を活用し、新たな価値を発見しビジネスに応用する取り組みが盛んです。しかし、上記の理想は「ユーザーが提供するサービスを利用し続けてくれること」が前提です。複雑で一貫性のないサービスや使いにくい体験は、ユーザーが利用を中断する原因となります。デジタルテクノロジーは無限に複雑になれる一方、ユーザーの認知能力には限界があるのです。このギャップをUIにおいて極力少なくすることで「使いやすい」を実現することを目標として始まったのがユーザビリティという活動であり、それをユーザーとデジタルサービスとのあらゆる側面を考慮しようと拡張したのがUXという取り組みです。UX/UIに取り組むときに起こる課題「優れたUX/UIを提供する」と言っても、そもそもどこから考えればよいのか分からないといった状況に直面することがあります。このような状況から抜け出すためには、「UX/UI」という言葉に対する解像度を上げて、具体的にどの部分が必要とされているのかを明確にすることが必要です。そこでまず「UX/UI」という言葉についての解像度を上げようとしたときに、ここで表現されている「UX」 と「UI」とはそれぞれ一体何を指しているのか理解することが肝心です。UXは、User Experienceの略で、日本語では「ユーザー体験」と訳されます。UXは、ユーザーがあるプロダクト・サービスを利用しているときに感じる主観的な印象や感情のことを指しています。UIは、User Interfaceの略で、日本語では「ユーザーインタフェース」と訳されます。UIは、スマートフォンのアプリやPCで利用する文書作成ソフトで実際にユーザーが操作する部分を主に指します。これは、デザイナーがそのレイアウトや振る舞いなどを含む画面の基本的な構造や要件を設計し、エンジニアによって実装される具体的なモノとして捉えることができます。多くの場合、企業が抱える「UX/UIを改善したい」というニーズに対する支援において、実際に改善対象となるのはUIの部分になることが一般的です。これは、UIを改善することでUXの改善につながるからです。では、UXそのものは新たに構想したり、改善したりすることはできないのでしょうか?答えは「できる」と言えます。これまでビジネスコンサルタントや事業企画部といった役割の方々が主に担当されていた作業領域において、「人間中心設計(Human-Centered Design、以下「HCD」)」や「デザイン思考」というこれまでとは異なる事業企画・開発のアプローチを活用することで、従来担当されていた方以外でもUXを改善することができます。これまでのアプローチの「代替」というよりは、特定の観点の「強調」という形でUXに関わることが可能になります。次によく取り上げられる課題は、「UXやUIはあくまで『デザイン』の領域なので、センスこそ重要である」という誤解です。確かにデザイナーの感性は最後の仕上げや美しさを追求する際に役立ちますが、基本的な知識やプロセスは誰にでも習得可能と言えます。例えばUIに関しては、Human Interface GuidelinesやMaterial Design Guidelinesなどを参考・準拠した設計を行うことで一定の品質をもつUIの提供は可能です。UXではHCDの標準プロセスがあり、初期にゆめみのような外部パートナーに参画してもらうことで、その後のプロジェクトでは内製メンバーでの自走も可能になります。さらに認知科学や行動経済学の研究から得られた法則やヒューリスティックは、ツールやフレームワークとして体系化され、UXやUIの検討するにあたって補助的な役割を果たします。いずれにしてもセンスではなく、「学習できる」領域であるからこそみんなで取り組むことができるのです。ビジネスに直結するのか分からない「ビジネスに直結する」という主題に対してUXやUIがどのように貢献できるか、大きく二つの側面に焦点を当てて考えることができます。まず一つ目はコストの削減という観点です。例えばあるコールセンター担当者が使う業務システムを考えます。現行の業務フローがとても複雑で、それに合わせたUIを設計しているため、1つの依頼処理に15分かかるとします。1日8時間働く場合、1人の担当者がこなせる依頼は最大32件です。ここにUXやUIを改善するプロジェクトが実行され、結果として1件の依頼の処理時間を5分に短縮することができれば、1日に処理できる依頼件数は96件になります。つまり作業効率が3倍に向上し、人数削減や稼働時間の短縮で直接コスト削減が可能になるのです。加えて、UXやUIを検討する際には「プロトタイプ」と呼ばれる実際のシステムを模した簡易版のアウトプットを利用して、実際のユーザーに事前に利用してもらいフィードバックを得るというプロセスを踏みます。これによって実際のシステム開発する前に課題を解決し、全体としてシステム開発費用の抑制にも役立ちます。2つ目は売り上げの増加という観点です。「ユーザーを中心に企画検討を進める」というマインドセットとプロセスはUIにおける検討でも変わりません。しかし、ビジネスにおける要求や提供価値を全く無視するわけではありません。UXとUIの検討において、ユーザーの体験価値から得られた発想とビジネス要求・環境から見出された発想は、互いにうまく融合・一致させることで真価を発揮します。このような両者の視点が一致したコンセプトのことを「UXコンセプト」と呼び、これが適切にプロダクト・サービスとして実装されたとき、ユーザーから愛され使い続けてもらうことができます。UXコンセプトは初期開発だけでなく、継続的な改善や機能追加のフェーズでも意思決定の礎となり、プロダクト・サービスの成長を支えてくれます。特に「SaaS」と呼ばれるサブスクリプション型のビジネスは、長期的にユーザーに価値を提供し使い続けてもらうことがLTV向上・ブランドロイヤリティの醸成に寄与し、着実に売り上げに貢献します。その結果、競合他社が模倣しにくい強みが生まれます。ゆめみがこれまで培ってきた経験から明らかになったのは、時代の変化やテクノロジーの進化によって引き起こされたデザインの重要性です。特にデジタルサービスのUX/UI品質がビジネスの成否に直結するという現実です。SaaSなどのビジネスにおいてはことさらに表層的なセンスによるデザインではなく、知識やプロセスへの理解が欠かせないものとなっているが、それは誰でも学習可能であるということも強調して説明しました。後半の記事では、実践的な方法やアプローチに焦点を当て、UX/UIの改善を実現するための効果的なプロセスや取り組みの実際についてご紹介します。