1. はじめにはじめまして。株式会社ゆめみでプロダクトデザイナーとして、新規事業の立ち上げや既存プロダクトの改善に取り組んでいる小林明花です。日々の業務では、ユーザーインタビューから得られるインサイトをもとに、企画やデザインの方向性を構築することを大切にしています。新規事業は常に不確実性と隣り合わせで進みます。その中で、「何をつくるべきか」を見極めるためには、仮説を素早く立て、ユーザーと対話しながら検証し、改善していく反復的なサイクルが欠かせません。本記事では、実際に私たちが取り組んだ新規事業支援プロジェクトの事例をもとに、探索から検証、PoC開発に至るまでのプロセスにおけるユーザーインタビューの活用方法をご紹介します。2. フェーズごとのリサーチ活用法新規事業開発の初期段階でデザインチームが関わる場合、以下のようなプロセスをたどることが一般的です問題の探索(ユーザーが抱える本質的な課題の理解)仮説の立案(その課題に対する解決方法の仮説化)解決案の検証(仮説がユーザーにとって有効かを検証)PoC(実装と実証による学びの深化)私たちが支援したプロジェクトでは、B2B向けに、一般社員が利用するアプリと、管理者向けにデータを活用するダッシュボード機能の構築に取り組みました。問題の探索からUI/UX具体化に至るまで、複数回のユーザーリサーチを行いました。今回は、各フェーズにおけるリサーチの設計と実践をご紹介します。3. アイデア探索期:探索型インタビュー探索型インタビューは、ユーザー自身が明確に認識していない課題や期待を発見するためのリサーチです。目的は「正解」を得ることではなく、「問い」を見つけることにあります。本プロジェクトでは、オフィスで働く一般社員を対象にインタビューを実施し、職場でのコミュニケーションや日常の働き方に関する具体的なエピソードを収集しました。この段階では、スクリプトに頼りすぎず、会話の流れに沿った柔軟な進行が重要です。ユーザーの語りから、意図せず表出する感情や矛盾、不思議な行動を観察することで、サービス設計のヒントが得られます。インタビューの記録は、チーム内で共有しながら分析を行います。本プロジェクトでは親和図法を活用し、素早く少人数のワークショップ形式でユーザー像を明確化しました。AIツールのNotebookLMやtoittaなどで迅速にサマリーをまとめ上げ振り返りを行うことも効果的です。この段階でターゲットユーザーを正しく認識し、チーム全体で合意しておくことは極めて重要です。曖昧なまま次のフェーズに進むと、次回のリクルートや検証設計に齟齬が生まれ、調査の目的がぶれてしまうリスクがあります。4. 検証準備期:プロトタイプ作成とその意味探索で得られた気づきをもとに、仮説を可視化するためのプロトタイプを作成します。プロトタイプは、サービスの価値をユーザーに伝え、意見を引き出すための「問い返し」の道具です。本プロジェクトでは、一般社員用アプリと管理者用システムの体験設計を行い、ユーザーが使い方や価値を理解しやすいよう、LPの形で提示しました。この時点では、全機能を詰め込むのではなく、「何ができて、どう役立つのか」を中心に構成します。6コマ漫画のようなストーリーボードや、仮想カタログの形でプロダクト像をまとめ上げることもできます。5. 検証期:プロトタイプを用いた受容性評価プロトタイプが完成したら、実際のユーザーに見せて受容性を評価します。このフェーズでは「点数づけ」や「2案比較」などを通じて、ユーザーの印象や判断基準を引き出す工夫をします。大切なのは、数値や選択結果そのものに意味を求めないことです。点数づけをしてもらったり、2案を提示することは、あくまで“深掘りのためのきっかけ”に過ぎません。これらの切り口を用意することで、なぜそう評価したのか、どんな場面で使いたいと思ったのか、といった問いにユーザーが答えやすくなります。本プロジェクトでは、1回目の評価結果をもとにプロトタイプを改善し、再度インタビューを行い受容性を確認しました。高速に仮説を検証することで、次に取り組むべき課題の優先順位を明確化できました。6. リサーチの結果をPoC開発へ活かすPoC(Proof of Concept)とは、構想したアイデアが技術的・体験的に成立するかどうかを簡易的に検証する段階です。このフェーズでは、ユーザーリサーチから得た知見をもとに、プロダクトのコア体験を絞り込み、最小限の機能で具体化していきます。同時にユーザビリティテストを実施し、実際の操作を通じた課題発見を行います。弊社では、テスト結果に対し、UI/UXのヒューリスティック評価項目を使って課題を洗い出し、重要度に応じて優先度をつけ、次の改善サイクルにつなげています。すべての要望を鵜呑みにするのではなく、プロジェクトのフェーズに合わせて取り組むべき課題を選別し、検討外のものも記録に残すことで、将来的な機能展開の糧にすることが重要です。7. おわりにユーザーインタビューは、解を得るものではなく「仮説を磨く」ための手段です。ユーザーの声を通じて検証し、学びながら形にしていく。このサイクルをスピーディに回すことが、新規事業の不確実性を乗り越える鍵になります。弊社ゆめみでは、本記事でご紹介したような「探索型インタビュー」や「受容性評価」、「プロトタイプ作成のためのUI/UX具体化」「ユーザビリティテスト」まで、一連のプロセスを横断的に支援しています。ご興味のある方はぜひお気軽にお問い合わせください。本記事が、みなさまのプロジェクト推進やチームの意思決定に少しでもヒントを提供できれば幸いです。