はじめに「サービスデザインと顧客体験(UX)は何が違うのか」「プロジェクトではどちらのアプローチを選ぶべきか」。このような疑問を持つ事業担当者やデザインマネージャーの方は多くいらっしゃいます。両者は密接に関連していますが、対象とする範囲や設計の視点、活用する手法には明確な違いがあります。適切な使い分けにより、より効果的な顧客体験向上とデジタルサービスの企画・開発が可能になります。私たち株式会社ゆめみは、2000年の設立以来24年間で、累計200社以上の大企業のサービス設計を支援してきました。製造業から金融業、小売業まで幅広い業界での実績を通じて、サービスデザインとUXそれぞれの特性と、効果的な活用場面について深く理解しています。本記事では、両アプローチの定義と違い、顧客体験向上のための実務での判断基準について具体的に解説します。サービスデザインとは|全体最適化の設計アプローチサービスデザインの定義サービスデザインは、サービス全体の価値提供プロセスを設計するアプローチです。顧客の体験だけでなく、それを支える組織の仕組み、業務プロセス、技術基盤までを包括的に捉え、サービス全体の最適化を目指します。サービスデザインの特徴全体システムの視点:単一の接点ではなく、顧客がサービスと関わるすべての場面(タッチポイント)と、それを支える内部プロセスを統合的に設計します。ステークホルダー全体の考慮:顧客だけでなく、従業員、パートナー企業、関連する組織まで含めた関係者全体の体験を設計対象とします。長期的な価値創造:一時的な課題解決ではなく、持続可能なビジネスモデルと継続的な価値提供の仕組みを構築します。組織能力の向上:サービス提供に必要な組織の能力開発、プロセス改善、文化変革までを含む包括的なアプローチを取ります。UX(ユーザーエクスペリエンス)とは|ユーザー中心の体験設計UXの定義UXは、ユーザーが製品やサービスと相互作用する際に得られる総合的な体験を設計するアプローチです。使いやすさ、満足度、効率性など、ユーザーの感情や行動により深く焦点を当てます。UXの特徴ユーザー中心の視点:ユーザーのニーズ、行動パターン、感情的な反応を深く理解し、それに基づいて設計を行います。インタラクション品質の追求:ユーザーと製品・サービスとの具体的な接点における操作性、理解しやすさ、心地よさを重視します。データドリブンな改善:ユーザー行動の定量的データと定性的フィードバックに基づいて、継続的に体験を改善します。認知科学の活用:人間の知覚、記憶、判断のプロセスを理解し、それに合致したインターフェース設計を行います。サービスデザインとUXの5つの主要な違いサービスデザインUX(ユーザーエクスペリエンス)対象範囲サービス全体のエコシステムユーザーと製品の相互作用設計視点全ステークホルダー主にエンドユーザー時間軸長期的な価値創造具体的な使用場面成果指標ビジネス成果・組織能力ユーザビリティ・満足度主要手法カスタマージャーニーマップ、サービスブループリントユーザーテスト、プロトタイピング実務での使い分け判断基準サービスデザインが適している場面新規事業の立ち上げ:事業モデルから顧客体験、内部オペレーションまでを一貫して設計する必要がある場合に最適です。既存サービスの抜本的改革:部分的な改善では解決できない構造的課題に取り組む際に、全体最適化の視点が重要になります。複数チャネルの統合:オンライン・オフライン、複数部門にまたがるサービス体験の一貫性を確保する場合に有効です。UXが適している場面デジタルプロダクトの改善:Webサイトやアプリケーションの操作性向上、コンバージョン率改善などの具体的な成果を目指す場合に適しています。ユーザーインターフェースの最適化:画面設計、情報アーキテクチャ、操作フローなど、直接的なユーザー接点の改善に集中する場合に効果的です。短期間での成果創出:限定的な範囲で迅速に改善効果を実現したい場合に、焦点を絞ったアプローチが有効です。統合的なアプローチの実践実際のプロジェクトでは、サービスデザインとUXを組み合わせることで、より大きな価値を創出できます。段階的アプローチ:まずサービスデザインで全体設計を行い、その後UXで具体的なタッチポイントを詳細化していく手法です。並行進行アプローチ:サービス設計チームとUXチームが連携しながら、それぞれの専門性を活かして同時進行で設計を進める手法です。まとめサービスデザインとUXは、それぞれ異なる視点と手法を持つ補完的なアプローチです。サービスデザインは全体最適化と長期的な価値創造を、UXはユーザー中心の体験改善を重視します。プロジェクトの目的や課題の性質に応じて適切なアプローチを選択し、場合によっては両者を組み合わせることで、より包括的で効果的なサービス改善を実現できます。重要なのは、どちらが優れているかではなく、お客様の事業目標とユーザーのニーズを最も効果的に達成できるアプローチを選択することです。